私が以前訪問していた方は、進行性の対麻痺を呈する男性の患者様でした。
80代男性、歩行能力は独歩可能で、この頃は転倒もなく、お風呂にも遠位見守り1人で入れていました。
社交的な性格で、私の活動リハビリの提案に奥様と一緒にノリノリでノッてきてくれました。
「魚釣り、行ってみませんか?」
二つ返事で承諾してくださったのを覚えています。
リスク管理(事前の場所見)
進行性の対麻痺の疾患であったため、徐々に歩けなくなってしまう疾患で、転倒には注意が必要でした。
海釣りを計画していたため、まずは安全な場所で魚釣りが出来なければなりません。
場所を見に行って段差や車が釣りの場所まで入っていけることなど、最適な場所を見て回って探しました。
活動リハビリを行う前には、必ず事前に現地の見回りを行なって、駐車場や歩く場所の確認、トイレの確認などしています。
どんな活動リハビリをするにあたっても、まずは安全第一だからです。
実施計画
どのくらいの時間、魚釣りをして帰るのか。これは非常に重要です。
健常者が魚釣りに行けば、丸一日、エサがなくなるまで頑張って釣ります。
しかし活動リハビリは、患者様の体調・体力に合わせて実施しなければなりません。
トータルで考えて、1時間半が良いだろうという結論に至りました。
少し短いかな、くらいの時間で抑えることで、疲れ過ぎを予防し、体調を崩してしまわないように配慮します。
しかし、結果的には1時間半でも大変疲れ、野外活動がかなりの大変さであるということが分かりました。
必要な道具の準備
必要な道具は、患者様と話し合いながらリストアップしていきました。
魚釣りは、お好きだったため竿などは持ってらっしゃいましたし、私も持っていましたから、新たに買うようなことはありませんでした。
魚を釣った後のクーラーボックスや、バケツ、患者様の座る丈夫な椅子など、準備は入念に行いました。
海釣りへ向けたリハビリの開始
海釣りをするにあたっては、まず屋外で活動することが条件になります。
屋外歩行を毎回のリハビリと、妻との自主訓練で毎日外を朝夕の1日2回歩行していました。
リハビリの時には20分程度、距離にしておよそ400m。
妻との屋外歩行では、1時間ほどの歩行で約1キロ歩いていました。
具体的な「魚釣り」という目標ができたことで、理学療法士と患者と妻の方向性が同じになったことが、生活の活性化に繋がったように感じました。
やり過ぎでは?
理学療法士が気をつけなければならないのが、ついついやり過ぎてしまう患者様のブレーキになることです。
リハビリは週4回実施していましたし、妻との屋外歩行は毎日続きました。
しかし不思議と、ひざ痛や転倒などには至らずに、過剰なリハビリにはならなかったように感じます。
「魚釣り」という目標と、状態の良さが、私の活動リハビリへの提案になったのだと思います。
進行性の疾患であったため、本患者様は一年後に亡くなられました。
思い切った「魚釣り」という野外活動が実現できたのは、この時が最後のチャンスだということが、理学療法士も患者様もご家族も理解できていたからでしょう。
いざ、魚釣り!
道具をたくさん積み込んだ車を走らせ、患者様の家に向かい、その後、海へ向かいました。
その前に、釣具屋さんでエサを買って行きましたが、みんなワクワクしてテンションは高めでした。
患者様に、まず第1投をしてもらうと、早速魚が釣れました!
こんなにうまくいくものなのか?
というくらい、魚釣りは成功し、全部で12匹ほどの魚を釣り上げ、十分に楽しめました。
予定通り1時間半の釣りを終えた後は、日陰に移動して、奥様が作ってくださった弁当をみんなで食べました。
患者様ももちろんですが、私自身も本当に楽しく、思い出に残る活動リハビリになりました。
最後に
みんながみんな、魚釣りをして楽しいというわけではないでしょう。
活動リハビリは、患者様が好きだったこと、でも現在はできないで諦めてしまっていることをやってこそだと思っています。
高齢になると、野外活動が難しくなります。
そんな中で、元気な若い我々がお手伝いさせていただいて、やりたい活動をしっかり準備を重ねて実現していく。
このことが、一番のリハビリであると私は確信しています。